知り合いに頼んで、海苔の網張りの写真を撮らせてもらった。
朝の光の中で、海に入る時を待つ。
やがて時間が来ると、談笑していた人々は一斉に立ち上がりバタバタと準備を始めた。
これから海苔の網の支柱を立てるために海に入る。
今や珍しくなった耕耘機は子供の頃はあちこちで見かけた。
別名テーラーとも言う。
しかも波を蹴立てて走る耕耘機には他ではお目にかかれないだろう。
それぞれのテーラーに乗り、支柱を満載したテーラーと共に数km沖の漁場を目指した。
前回から7年ぶり。荷台に乗せてもらった。
3分程でテーラーを降りて海中の道を歩く。そこから船に乗ると4〜5分程で沖合約3kmの漁場に着いた。
Tさんの「宝朗丸」に同乗させてもらった。
錨を降ろし船を固定すると夫婦二人の支柱立てが始まる。
支柱はグラスファイバーでできている。一本の長さは約7m。
一潮(約2週間)前に立てた細い棒を目印に一本づつ海底に突き刺していく。
表面の固い層を突き通すと、後は一気に1m程度の深さまで突き刺さる。
支柱は岸に平行に10区画分の11本、岸から沖に向かって6区画分の7本立てる。
支柱の間隔は一間(1.8m)。縦横一間が一坪だから、長方形に並んだ77本の支柱でできた1区画は60坪ということになる。
これを「コマ」という。
この日はわたしが同乗したのでいつもより作業を減らし「2コマ」つくったそうである。
支柱の数にして154本を立てたことになる。何やら申し訳ない。
だが、Tさんはわずかに息を切らすだけで休みもしないで次々と立てていく。
一つのコマにはそれぞれ木製の札が付けられる。コマの番地のようなものである。
Tさんは一気に作業を終えると昼食。海の真ん中に浮かぶ船の上でごちそうになった。
9月とはいえけっこう陽射しは強く、船に上がったら頭はぼんやり体はフラフラだった。
Tさんはさすが筋金入り。缶ビールに御酒を立て続けに勢いよく空ける。
わたしは缶ビールを1本とおにぎり1個がやっとだった。
ところで、こちらは人を雇って支柱を立てている。雲仙をバックに一日中海に浸かって力仕事で1万円、昼飯付きだ。
多い人では40〜50コマを持つ。
だが、この地区で一番若いTさんでも50歳代である。
最高齢は70歳を越えるという。
生産技術の向上で以前より安定した収穫が得られるようになってきたが、自然を相手の重労働であり、若い人はいない。
海面に様々な幾何学模様が次々と描かれていく。
この後、潮が引いてしまい干潟が現れたところで支柱をより深く刺すことになる。
まだ作業を続けるTさんご夫婦に別れを告げ、陸続きになった干潟を風に吹かれてフラリフラリと歩いて帰った。